
#184 変化の約束
VoのMuiの脱退が決まった夜、胸の奥でいくつもの想いがぶつかり合い、やっぱり眠れなかった。
翌朝、考えが煮詰まると必ず足を運ぶ喫茶店へと向かった。
いつもの左奥の席に腰を下ろし、いつものブレンドを頼む。ほどなくして、マスターがこちらの顔色を覗き込むように言った。
「顔がドヨンとしているね。どうしたの?」
「訳あって眠れてなくて」
豆を挽く音が小さく店内に響く。その背中を眺めながら僕はぽつりと胸の内を零した。
「一人会社を辞めるんです。僕らは続けていくしかないんですけど、思ったよりも堪えてしまって。うまくいくかどうか不安です。これからどうなるんですかね。」と半ば投げやりに言った。
マスターはコーヒーを淹れながら黙って聞いていた。こちらを一度も見ず、背中だけで受け止めるその姿勢が妙に心地よい。しばらくの沈黙ののち、湯気をまとった声が落ちてきた。
「うまくいっても、いかなくても、何かは絶対に変わるから大丈夫。」
それは「きっとうまくいくよ」や「絶対大丈夫だよ」という無責任な慰めとは違っていた。どこか寂しさを含みながらも、不思議と誇らしさが漂う言葉だった。
その瞬間、僕の中で小さく確信が芽生えた。
結果がどうであれ、必ず何かが変わる。変化は避けられない。けれど、それは恐れるものではなく、むしろ次へ進むための合図なのだと。
僕が欲しかったのは、まさにその言葉だった。
もしこれから誰かに同じような相談を受けたなら、僕もこう答えようと思う。
「うまくいっても、いかなくても、何かは絶対に変わるから大丈夫だよ」と。